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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)6391号 判決

原告 佐々木静子

右訴訟代理人弁護士 東垣内清

同 仲重信吉

同 河村武信

被告 西田倉

〈ほか一名〉

主文

一、被告らは原告に対し各金九万三、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年一二月一八日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二、原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担としその余を被告らの負担とする。

四、この判決は原告において被告らに対しそれぞれ金三万円の担保を供するときは、かりに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告らは原告に対し、各金二二万一、五〇〇円およびこれに対する昭和四二年一二月一八日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め(た。)≪以下事実省略≫

理由

一、≪証拠省略≫によれば原告は宅地建物取引の仲介を業とする者であることが認められるところ、被告西田は原告に対し昭和四二年四月中その所有にかかる別紙目録記載の土地建物(以下単に本件物件という)の売却仲介方を依頼し、同日右当事者間に不動産売買の仲介委託契約の成立があったことは原告と被告西田との間において争いがなく、さらに≪証拠省略≫によれば、被告山田久子の先代訴外亡山田アサノは、同年八月一一日ころ原告に土地建物の買受仲介を依頼し、同日原告と山田アサノとの間に不動産売買仲介委託契約が成立したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二、しかるところ、昭和四二年九月ころ被告西田が売主となり山田アサノが買主となって右当事者間に本件物件につき売買契約が成立したことは当事者間に争いがないところ、被告西田は右売買契約の成立前原告に対し口頭をもって売買の仲介依頼をことわる旨申出て仲介委託契約を解除したものの如く主張するけれども、右主張と同旨の被告本人尋問の結果はたやすく措信し難く他にこれを認めるに足る証拠はない。

三、原告は被告西田および山田アサノ間の前記売買契約は原告の仲介斡旋により成立したものである旨主張するので判断する。宅地建物取引業者は民事仲立人であるが、商人であるから商事仲立に関する商法第五五〇条、第五四六条の類推適用により、不動産取引仲介業者が不動産売買の仲介による報酬を請求し得るためには原則として仲介業者の媒介により売買契約の成立したことが必要であって売買契約の成立に至らないときは、たとえ仲介業者によって売買の媒介のため労務の提供がなされたとしても、同法第五四六条所定の手続を終えたものということができないから商法第五一二条による報酬を請求し得ないものといわなければならない。これを本件についてみるに≪証拠省略≫を綜合すると原告は昭和四二年八月一一日山田アサノから土地建物の買受方仲介依頼を受け直ちに山田アサノを案内して本件物件を見分させ、売主として被告西田を紹介し、その際山田アサノは初めて本件物件が売りに出されていることを知らされ、また被告西田も初めてその際原告の紹介により、山田アサノを買手として知ったものであること、その後右売買交渉は値段の点で折り合わずに経過していたところ、同月末以降山田アサノはその甥にあたる小松基数を代理人として被告西田との間の本件物件の交渉にあたらせ、被告西田は右小松から再三再四その売渡方を懇請された結果、山田アサノに対し代金三一〇万円で売渡すこととなり、昭和四二年九月二五日ころ、原告を介することなく、直接右当事者間において、売買条件を取り定め本件物件についての売買契約を締結し、代金の授受、所有権移転登記手続および物件の引渡のすべてを了したことが認められ、以上の認定に反する証拠はない。

右認定の事実によると、原告は被告西田および山田アサノによる本件物件の売買委託に基づいて、山田アサノに本件物件を見分させ被告西田を売手として紹介し、被告西田に山田アサノを買手として紹介することにより右当事者間の売買交渉につき端緒を作ったものであるが、その後売買契約の成立に至るまでの売買の接衝、条件の決定契約の締結、これに伴う事務処理等はすべて直接当事者間で、行われ原告が積極的に当事者間の売買に介入して売買の成立の勧誘に努め、契約の締結、書類の授受等の媒介活動に携わった事蹟は本件証拠上認められないけれども、右の如く、仲介業者が当事者間に成立した売買につき機縁、端緒を与えた事実があり、右の行為と売買契約の成立との間に因果関係が認められる以上、その後当事者が仲介業者の媒介を排除し、直接売買契約を締結したことについて正当な事由が存在しない限り、民法第一三〇条の法理により、仲介業者の媒介により契約が成立したものとみなして、報酬を請求し得るものと解するのを相当とするところ、前記認定の経緯に照らし、原告の前記行為と本件物件の売買契約の成立との間には因果関係が存するものと認められ、被告西田と山田アサノとの間において、原告の媒介を排除して直接契約を締結したことについて正当な事由の存することについては本件全証拠によってもこれを認めることができないから、原告は売主たる被告西田および買主たる山田アサノの両名に対してそれぞれ仲介による報酬を請求し得る権利を取得するに至ったものといわなければならない。もっとも、原告と被告西田および山田アサノとの間における仲介委託契約には、仲介報酬の支払およびその額について明示の約定が存したことについて、これを認めるに足る証拠は存しないけれども、商法第五一二条により商人はその営業の範囲内の行為をなすことを委託されて、その行為をなした場合においては、その委託契約に報酬の支払についての定めが存しないときにおいても委託者に対して相当の報酬を請求し得るものといわなければならない。

四、そこでつぎに被告西田および山田アサノの支払うべき報酬について判断する。原告は宅地建物取引業法第一七条、これに基づく建設省告示昭和四〇年第一一七四号宅地建物取引業法の規定により宅地建物取引業者が受けることのできる報酬の額によって定められたところに従い、社団法人大阪府宅地建物取引員会において定めた報酬規定により本件の報酬額を算定し、右金額による支払を求めるので判断するに、≪証拠省略≫によれば、改正前の宅地建物取引業法第一七条に基づく建設省告示昭和三九年第一六六号により大阪府知事が宅地建物取引業者の報酬額に関する規則で定めた報酬基準(前記建設省告示昭和四〇年第一一七四号によれば宅地建物取引業法改正後も当分の間右報酬額による旨規定されている)に基づいて、社団法人大阪府宅地建物取引員会(昭和四〇年七月一日以降定款変更により、社団法人宅地建物取引業協会と改称)により原告が請求原因第三項で主張するような媒介手数料を定めていることが窺われるけれども、仲介委託に際し右報酬規定どおりの報酬の支払を受けることについて明示または黙示の合意が当事者間に成立していたこと、ないしは右報酬規定による報酬の支払を受けることが事実たる慣習として行われていたこと等の特段事情の存しない限り、当然には右規定による報酬額を仲介委託者に請求し得るということはできないし、また、宅地建物取引業法に基づく建設省告示昭和四〇年第一一七四号によって定められた報酬額は、宅地建物取引業者がその取引によって委託者に請求し得る報酬額の最高限度額を規定したにとどまり、右報酬額による報酬の支払を当然請求し得る根拠とはなし得ないから原告のこの点に関する主張は失当である。

五、そして、不動産売買の仲介委託契約において、当事者間にその報酬の額についての定めがなされなかった場合、仲介業者が委託者に請求し得る報酬の額については、前記宅地建物取引業法に基づいて定められた報酬の最高額を考慮にいれ、具体的に成立した売買契約について、仲介業者がその媒介に要した労力、支出した費用、不動産の売買価格、委託契約成立の経緯等のほか本件の如く売買契約が仲介業者を除外して直接当事者間に成立したものである場合には、仲介業者による対象物件ないし相手方の紹介等の仲介行為が売買契約の成立に寄与した必要性、有益性の程度、通常予想される経緯により契約が成立した場合に仲介業者が委託者に請求し得る報酬額等諸般の事情を斟酌して決定するのを相当とするところ、これを本件についてみるに前判示のとおり原告は本件物件の売買にあたり、山田アサノを案内して本件物件を見分させ、当事者双方に相手方を紹介し、売買交渉の機縁、端緒を与えたこと以外には、売買契約の成立のため必要かつ有益な媒介活動が行われた事情の認められないこと、本件物件の売買代金は三一〇万円であったこと、その他本件証拠に顕われた諸般の事情を斟酌して、原告が被告西田および山田アサノに対して請求し得る報酬額は、右売買価格の三パーセントにあたる金九万三、〇〇〇円をもって相当と認める。

六、ところで右山田アサノは昭和四三年二月八日死亡し、被告山田久子が相続人としてその権利義務を承継したことについては、同被告において明らかに争われないところであるから被告両名は原告に対し、それぞれ金九万三、〇〇〇円を支払う義務があるといわなければならない。そして、本件訴状が被告西田に対しては昭和四二年一二月二日、山田アサノに対しては昭和四二年一二月一七日にそれぞれ送達されたことは本件記録に徴して明らかであるから、原告の本訴請求中被告らに対し金九万三、〇〇〇円およびこれに対し昭和四二年一二月一八日以降商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 名越昭彦)

〈以下省略〉

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